新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

焔立つグランドで

高校野球ネタクライマックス(注:長いです)







歴史が目の前にあった。でもそれは本塁付近でするりと逃げていった。



曇天の隙間に青空が覗く中、また、夏が終わった。





昨日は母校の試合だった。しかし僕はその日別の試合の審判に入ってしまっていた。僕の試合は神宮第二。母校は江戸川球場。僕の試合がコールドで終わればいけるかも・・・

と僕は球児に対して失礼な気持ちでグランドの二塁後方でいかめしい顔付きをしていた。

カードは都江戸川対淑徳。都江戸川は部員数100人近くの大所帯で、都立屈指の実力を誇る強豪。対して淑徳にはそれほどの印象が無かった僕は、試合前、江戸川のコールド勝ちを予想していたのだ。



偏見とは、高校野球に似つかわしくない言葉だった。

結果:



 都江戸川 10―9 淑徳

2007年7月21日 

神宮第二球場

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計

淑徳   0 3 0 0 2 0 3 1 0 0 9

都江戸川 0 3 0 0 0 6 0 0 0 1 10

延長10回サヨナラ

【投手】 淑徳:世良→高橋

    都江戸川:阿部→藤田悠





淑徳のチアがかわいいな〜などとスタンドをチラ見しながら観戦していたのも序盤まで。白熱するゲーム展開に僕も次第に引き込まれていく。6回に江戸川が6得点と畳み掛けるも、7、8回と淑徳が粘りに粘り、終盤追いつき、延長戦に。

細切れにタイムがかかりナインは互いに

「俺らこの時のために3年間やってきたんだろうが!!」

「お前の実力そんなもんじゃねえだろ!!!」

という激が聞こえてくる。これはクサい青春漫画でもドラマでもない。しかしそれ以上に言葉が互いを、そして見る者をも自然に熱くさせる舞台だった。



そして迎えた10回裏。シーソーゲームだったこともあり時間はかなり経過し、母校の試合も始まっていた。しかしこの時点の僕は完全にこの試合に集中していた。それがこの熱戦を繰り広げる両校への礼儀だからだ。

江戸川は後攻。いつでもサヨナラのチャンスがある。



先頭打者は代打。高校野球では背番号二桁、つまり控えの選手がしばしば代打として登場する。「3年間の記念出場」と見る人もいる。しかし彼らの代打成功率は決して低くない。3年間の全てを3、4分に過ぎない1打席にかける、その思いがヒットを生む。僕もそんな気持ちで2年前、夏の打席に立った。

代打の彼は勝負に勝ったのだろう。鋭い打球をライト前に飛ばし、サヨナラのランナーとなる。そして次の打者もライト前にポテンヒット。その間にランナー2、3塁となる。淑徳はここで敬遠策。ランナー満塁。

人工芝からは熱気が照り返し、その陽炎の先に苦投する背番号1がにじむ。

両校のスタンドからは叫びにも似た応援。すでに目をタオルで押さえる淑徳のチアリーダー、必死で声をあげるスタンドの部員。猛る江戸川のスタンド。

それぞれの思いが交錯した瞬間、打球はセンター右にふらふらと上がっていく。センターが伸び上がって飛ぶ。

白球は人口芝を転々と転がる。

湧き上がる球場。その場に立ち尽くす淑徳ナイン。



試合から引き上げ、先輩の審判とのミーティングを軽く終えた後、挨拶もそこそこに神宮を引き上げる。高校野球に絶対などない、おととし準優勝校の日大豊山だからといってうちが勝てないと決め付けてはいけないのだ!!現に強豪江戸川に対する淑徳の健闘を目撃して熱くなっていた僕は速報サイトで母校の経過を見る。6回、2−2!!

転がるように総武線に乗り込み、分刻みで高校野球スレを見ながら東西線に乗り換え。



569 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 14:05:32 id:HzjkgMBhO

海城、犠飛で先制。

豊山は海城・北森の球威に若干押されてる。

しかし、守備は豊山のほうが上。 

内外野の動きが軽快。

海城の北森が突如乱れるようなことがなければ、この試合コールドにはならないと思う。



574 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 14:11:22 id:M4oN7RT1O

城北森やべぇー!!!





581 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 14:21:16 id:HzjkgMBhO

海城、左前タイムリーで追加点2-0。

豊山先発井上降板。

試合は現在3回裏途中



601 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 15:02:46 id:HzjkgMBhO

五回終了2-2。

海城の北森は上で野球を続けるかどうかはわからないが、

もし東大に入学し野球部に入ったら、松家みたいな救世主になりえる。



ちょwwwそれはwww



618 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 15:27:39 ID:+FIU29uLO

球場の大半が北森に心をわしづかみにされている



646 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 15:49:10 id:uYwDbRcf0

7回終わって海城3−2日大豊山





649 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 15:50:04 id:mPlpfgRqO

ぶさん七回、二死二三塁四番が今日よっつめの内野ゴロで得点できず



八回海城攻撃中



656 :名無しさん@実況は実況板で:2007/07/21(土) 15:55:28 id:mPlpfgRqO

三対二のまま九回の攻防

海城たいぶざん







この時点で電車が西葛西到着。改札を抜け、何度となく通った江戸川球場への道をひた走る。球場のどよめきを聞き、階段を駆け上り、スタンドに入ると客席は満員。

海城3−2日豊

9回裏の攻防。ここを抑えればうちの野球部にとって歴史的な出来事となる。

H中とS下が近くにいたので一緒に観戦。3人で鳥肌ぞくぞくする。

日豊はおととしに準優勝した東東京の強豪。投打ともにハイレベルで知られるがことに特徴的なのが硬い守備とエースの完成度の高さ、そして応援である。

ピンクのメガホンをスタンドの部員が一糸乱れぬ動きで叩き、叫ぶ。こちらの完成度も東東京屈指。チアはいないが熱さはこちらに軍配である。そして9回裏。その日豊応援団が、うちの野球部相手に必死で唸りを挙げている。巨獣の雄叫びにも似たそれは江戸川球場を揺るがし、その渦の中心、マウンドにあのきたもりは立っていた。



どうやら7回に強襲ヒットを足に浴びて、疲れもあいまってか、球威は落ちてしまっていた。それでも一回を抑えればこの試合の勝ちはこちらのもの。

先頭に四球。次打者はバントを失敗。

ヒットを浴びて1,2塁。次の代打を1ゴロに討ち取る。

2アウト。



この時!!!!!



2塁走者がオーバーランして三本間で止まっていたのである。基本的に、本塁に送球し、キャッチャーがボールを持って三塁側にランナーを追い込んでタッチアウトにすれば安全に勝ちが確定する。

しかし、好事魔多し。

送球は3塁手に。ホームにランナーを追うという危険な形。ホームで待ち受ければいい捕手まで3塁側に飛び出す。カバーに入ったのはピッチャーのきたもり。ホームでのタッチプレー。





・・・アウト!





と誰もが信じガッツポーズが出掛かった瞬間。



セーフ!!





北森の手からボールがこぼれていた。





それでも、次打者を抑えれば希望は・・・

しかし、北森に強襲のヒットを打ったその3番打者はあっさりと外野に尾を引くサヨナラ2塁打を放つ。



天高くあがったその打球は、母校の選手、OB,保護者、教師、多くの願いを吸い込んで外野に消えてしまった。



 3回戦

日大豊山 4―3 海城

2007年7月21日 

江戸川区球場

     1 2 3 4 5 6 7 8 9 計

海城    1 0 1 0 0 0 1 0 0 3

日大豊山  0 0 0 2 0 0 0 0 2 4



9回サヨナラ

【投手】 海城:北森

   日大豊山:井上→佐野良→野本







捕手でキャプテンのいわさきは試合後涙をこらえ切れなかったようだ。当然である。岩倉に当然の如く叩きのめされた僕らと違って彼らはそれ以上の強豪豊山に勝ちかけたのだから。

かくして夏は終わった。僕らとともに戦った代もこれで最後である。中でも僕らの夏の一勝は北森のおかげといっても過言ではなかった。すごい奴だよほんと。



そしてがんばったナインとベンチ。とてもいい試合だったよ、ナイスゲーム。





審判の疲れもあり、いろいろなものが胸に去来して、帰宅した僕はすぐに眠りに落ちた。