新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

道徳の快楽、本能の快楽

この前、朝ケータイをチェックすると、ある一通の衝撃的電子文が目に飛び込んできた。



「報告します、彼女できました」



的な。

彼はうみしろの誇る堅牢なDT防衛軍の佐官クラスの勇士であると同時に、中央線というイカ臭い運命共有鉄道を利用するいわば盟友でもあったため、いささか目を疑った。だがそこには、必要以上の失望も、嫉妬感もなかった。



そこにあったのは「ああ、あいつもまた飛び立っていったか…」と巣を後にする兄弟を祝福する感覚とでもいうべきか。

思えば、彼が浪人のときから僕は彼と共に新宿〜中野、高円寺付近を愛し、飲み、歌い、無意味に語り続けながら、無意味に歌い続けながら、うろついた仲だった。





タスクが映画やら空手やら少林寺やらバンドやら留学で忙殺を極める中、僕のDTとしての誇りを維持できたのは彼との時間があったからだと思う。

誇りという名の一種の自虐というか、それを語り合い傷を舐めあいつつも、リアルな世界でパンチをきかせて生きていく、そんな生き方に憧れていただけなのかもしれないし、今もそう思う。





罪、つまりマイナスの行為から得る快楽を上回る苦痛を与える刑罰を作り、自らを律することから文明社会は始まっている。文明社会では罪と真逆の美徳、道徳を規範とすることで、人間を罪の快楽から遠ざけるだけでなく、道徳を遵守することからも快楽を得る存在へと変えた。

要するに、万人のため、そこまでいかずとも自分の周囲の世間に貢献することで得る評価に、気持ちよさを感じる存在にしてしまった。

しかしこれこそ文明的インポテンツではないだろうか?





本来の人間の姿とは年一度の豊饒を祝う祭で際限なくまぐわい続け、隣村の収穫に嫉妬して侵略し、虐殺し、略奪する。そんな歴史を何千、何万年と重ねた結果が人間にインプットされた自然の声であり、本能であり、真の罪だと否定することはできないのではなかろうか。前述のとおりそれを文明的人間は罰という名の理性、道徳という名の新しい擬似快楽でコントロールしている。



だが、その擬似快楽におぼれたところで、人間は本当に幸せになりえようか?

どんなに不快なときも、悲しいときも、寂しいときも、他人側からは決して自分の本能的欲望を満たしてはくれない。

本当に自分の本能的欲望、生きる喜びを満たしたければ、スポーツなり仕事なりの自分の戦場で敵あるいはライバルを倒し、自分の目当ての女をなんとしてでも手に入れなければならない。

例えるならそれは狩猟であり、村上龍の「愛と幻想のファシズム」では狩猟の精神を失った人間を駆逐しようとする鈴原トウジの狩猟社による一つのテーゼが書かれている。



だがその青写真は結局あえなく破れる。全ての人間が狩猟精神を持ちうる強い存在ではなかったからだ。手段を選ばずエネルギッシュにつねに敵を倒し、女を手に入れ、富を築いていく人間はなんだかんだ言って上に上っていくが、そんな人間なんて数えるほどしかいないということだ。多くの幸せな小市民の生活は、分相応のありふれた家庭を守り、社会的に美徳とされた生き方をすることで満たされる達成感、責任感によって構成される。そのあたりは農民のころからいい意味で全く変わっていない。



文明社会を構築し、老若男女全ての人間を平和に、かつ安定して生かす術は人間の叡智である。僕という人間も一人の社会の歯車だ。



その歯車は道徳の遵守、周囲への貢献という潤滑油をふんだんにさされて今ぐるぐると周っているところ。

ミニ四駆の超速ギアもびっくりの回転数で。

だがそこで擦り減っても、その一部始終を眺めている他の歯車からの見返りなど期待はできないし、あってもそれは歯車に去来する喪失感を埋めてくれるものではない。遅まきながら、そのことに最近気付いた。





結局なにが言いたいのか、僕という歯車は、男社会的にダメな、「DT」という基本ステータスを持ちながら、「ヤツはなんかただのDTじゃない、おかしい」というねこだましを喰らわせたいがために超速で回転し続けているのだ。

それは文明社会で周囲の評価に一喜一憂する小物に過ぎない、そう、狩りをしていない臆病者のチキンなのだ。



そんなだましだましの擬似快楽に溺れたままでは、僕のあるかないかもわからない狩猟精神は死んでしまう。



親父はだいたいこんなことを言っていた。

「会社の仕事だって、なんだって、全部フリなんだ、フリ。目指すのはつねに自分の野望と快楽じゃなきゃ」

誰でも思ってるであろう当たり前のことなんだけど、やっぱりそれは大事なことなんだなあ。



男は野望と欲望に生きなきゃ人生楽しくないしすぐ老いる。





そんなことを考えた。

まあ、盟友の彼の幸せなラブラブライフを祈っておこう。