疾走
重松清。
いい文章を書く人が「これだけは読んどけ」と挙げるうちの一冊に入っている確率が高いのでとりあえずブックオフで購入。
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重松清だし、どうせ家庭問題のほつれとそこに直面した人々の戸惑いや苦悩、そんで最後に、少しだけ解決の兆しみたいな光を射し込まるパターンだろ・・・
と思いつつページを開く。
止まらなかった。
人をまったく拒絶するような冷たい人物像を描きつつも、読者の心を掴んではなさないテンポの速さ(しかし、この作品の場合ひどい方向に向かって進んでいくのであるが)を秘めた構成の妙だと思う。従来の読みやすさを一貫させつつ、ここまで読後感の違った作品があるというのもまた不思議なものだと感じた。
当たり前の絆の崩壊が連鎖を呼び、その結果「ひとり」になってしまった場合の極限を作者は描きたかったのだと思う。
作者のほかの作品や、一般的な家庭問題を扱った作品では、その悲哀や崩壊のプロセスにスポットライトを当てて、教育、社会問題を浮き彫りにしつつも、最後は何かしらの形で救済を施す、というパターンが普通だと思う。
そうでなければあまりにも読後が苦しい。
ただこの作品に限っては、絆の崩壊が崩壊を呼び、完全に崩れ落ち、粉々に消えていく様子を描くことに徹し切っている。はっきり言って読後は苦しいが「それだけに心にこびりつく」。
様々な社会問題の連鎖や、人と人の繋がりを、徹底的にネガティブなアプローチではあるが、強調し、意識させることに成功していると言えるのではないだろうか。
毛色の違ったこの長編を書いた作者の意図はそんなところにあるのではないか、というのは見当違いだろうか。
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