新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

千年の時を超えて、愛せますか。

久々にレビューを書こうと思う映画を見れました。今敏監督、千年女優



普段なんとなく気づいているようで無意識に押しやっている本質、それを緻密なシナリオで「暴いて」くれる映画を作ってくれる今敏。しかもそのシナリオに見合うクオリティを併せ持っているのがまたすごい。

文化庁的には千と千尋と同じ年に、同じ賞を受賞させたようだけど(パーフェクト・ブルーは舞台がアングラすぎてムリだわな)それを知らなかったあたり、また自分の無知さを知った。

ちなみにこの映画を見る前と後では、タイトルの目的語が変わった!見る前は、「恋人」的言葉だったんだけど。



では簡単にあらすじでも。※以下ネタバレありかも!



芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、自分の所属していた映画会社「銀映」の古い撮影所が老朽化によって取り壊されることについてのインタビューの依頼を承諾し、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れるが、立花はインタビューの前に千代子に小さな箱を渡す。その中に入っていたのは、古めかしい鍵だった。そして鍵を手に取った千代子は、鍵を見つめながら小声で呟いた。

「一番大切なものを開ける鍵・・・」

少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく・・・。

↑ここまではウィキペディア

関東大震災の起きた年に生まれた千代子は、裕福な家元で少女時代を送っていたが映画会社「銀映」の専務の目に留まり、女優にならないかと勧誘を受ける。



答えを決めかねていたある日、特高警察に追われたケガをした思想犯の画家を自分の家の蔵にかくまうことになる。

その画家は描きかけの画を指し、「満州で仲間が戦っている。筆と絵の具じゃ力になれないかもしれないがね。戦争が終わって真の平和が訪れた時、故郷の北海道でこの画を完成させようと思っている。その時は御礼に君を招待しよう」

と約束をする。しかし翌日、特高警察に居場所が知れ男は首にぶらさげていた鍵を置いて姿をくらます。



一目男にあいたかった千代子は満州で撮影されるという映画の撮影に参加することを決意。女優への道を歩み始める。いつかは、きっといつかはあの人に会いたい。そんな静かな思いを胸に秘めた千代子の演技は常に可憐な輝きを放つ美しさを帯びており、千代子は戦前期、戦後と銀映映画のスターでありつづける。

この間に描かれる時代を問わない数々の映画はまさに千年の時を超える虚構。演じる千代子の人生の旅とイコールだったといえる。

そしてその描写はマッドハウス。色彩の使い方が艶やかで魅力的。



女優として活動する時は必ず男の持っていた鍵を肌身離さず千代子は身につけていた。しかし、宇宙を題材にした映画の撮影中に事故が起こり、千代子は鍵を紛失。

その直後、突然千代子は引退してしまう。

実はその時銀映の社員だった立花源也は、鍵を見つけていた。

「なぜ突然引退してしまったのですか」

と問う立花に

再び鍵を手にした千代子は

「私は老いてしまった。もう、あの人が知っている私の姿ではないの。きっとあの人は私のことはわからないわ」と答える。



その直後地震が起き、以前から容態の思わしくなかった千代子は病院に運ばれ、立花に看取られ亡くなってしまうのだった。



とまあ、頭の足りない僕がシナリオを要約すると、魅力は伝わらないのだけど。



※以下、核心部の記述あり

この映画の楽しみかたは一人の女優の虚構(映画)と現実の入り乱れる華やかな一代記の中に隠されている「女性の人生の本質」にいかに迫れるかといったところではないだろうか。



少女時代の千代子に男は「14日目の月が好きだ」と言う。翌日に満月を控えて輝く月。満たされた後は欠けていくのみだが、その可能性を持った輝きの美しさを男は愛したのか。

そして、鍵の男に再び会うという願いで、千代子の心は生涯満たされる前の14日目の月で居続けることができた。女優という職業は千代子にとって、その初恋の人を追い求める情熱と「いつか、いつかきっと」という満たされない気持ちへの期待を最大限に生かせる天職だったといえる。

「あの人が私の映画を見て気づいてくれるかもしれない」という想いを秘め映画女優としての輝きを一層放っていく千代子だが、そんな自分の本当の気持ちに当時、気づいていたのかいなかったのか。



映画「あやかしの城」に登場する城に巣食う老婆のもののけは、落城しつつある燃える城で、自害した主君を前にした姫役の千代子に、飲めば自害した夫と来世で添い遂げられると騙し、千代子に薬を飲ませる。しかし飲ませた薬は「未来永劫恋する男を追い続ける定め」になるというもの、そして「そなたが憎くて愛しい」と千代子に言い残し消える。

この老婆はその後の千代子の回想に常に登場し続けるが、後半になって、千年の間「未来永劫恋する男を追い続けた」千代子であることが明かされる。(老婆が現在の千代子の回想において記憶に付け加えられたものなのか、実在した役なのかは不明。)

つまりは、決して満たされることのないまま初恋の男を追い続けるという行動を望んでいたということ。自分で自分を欺き、虚構の世界に追い込んだということだ。

本当に望んでいたのは男ではなく、彼を追う一途で情熱的な自分。そして、そんな自分を愛して千代子は輝いていた。



そして映画界を引退するきっかけになった撮影事故で、宇宙飛行士のヘルメットに写る老い始めた顔を見て、自分が自分を追い続けていること、そして追い続ける自分の輝きに年齢という限界があることを悟った千代子は隠遁生活に入る。



ちなみに最後まで千代子には知らされないが、立花は男が特高警察に捕まり激しい拷問を受け死んでいたことを知っていた。このことがまた一層千代子の人生の生々しさを際立たせ、壊される銀映の撮影所、そして死に際の千代子の言葉が涙を誘う。男を追う理由であり唯一の手がかり、鍵を手に死という永遠の旅に出る千代子。

「だって私、あの人を追いかけている私が好きなんだもの」



そして見た後のタイトルの目的語は「自分」になりました。

満たされる前のときめきを無意識に胸に秘めて、生涯女優を演じた千代子を描いたこの作品。表層部でテーマがわかる作品を好む日本のメディアむきじゃないと想う。だから黒澤清とか今敏の映画は深夜やってるんだwwwww



「自分より好きな人がいるそんな自分が好き」

これに限らず他の洋邦画、音楽で出るテーマ。

誰だって気づいてるけど露呈されたら不思議な気持ちになるもんだね。

そんなアニメにしてリアルな人生を高いクオリティで見れて、しばし至福の時間が過ごせました。

間違いなく5つ星。

次はパプリカ見たいわあ。