新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

時を呪う





むかしむかし

海と山に囲まれた街に10才の少年が住んでいました。少年は子供らしくない子供でした。ちょっとやる気になれば、作文でも絵でも勉強でもいつも周りの友達から頭ひとつ抜けることができました。

でも少年は、人当たりをよくするのが得意だったので、周囲に決して気取ったところを見せないようにしていました。人を楽しませるのも得意だったので、それなりの人気者になっていました。

しかし、同時に、周りに気付かれないように優越感を持つ、とんでもない井の中の蛙でもありました。

そんな少年の前に、一人の少女が現れました。彼女は真の意味での神童でした。学校の勉強はもちろん、自由研究、芸術、作文でもなんにでも、豊かな才能を示しました。

さらに人格的にも素晴らしく、なにより愛おしかったのです。

少年の心を覆ったものは、最初は嫉妬でした。自分よりはるかに懐の広い実力を持った彼女への。彼女の素晴らしさを目の当たりにする度、自分の卑屈さと愚かさをも眼前に曝されるかのような気持ちになった少年は、彼女に辛く当たりました。その行為は少年の良心を傷つけましたが、彼にとってはちっぽけなプライドのほうが良心より大事だったのでした。

しかし少年はあるとき彼なりに悟りました。彼女に嫉妬する自分がなにより醜いのだと。

次の日から少年の目には、彼女は違って映りました。尊敬と思慕のこもった眼差しで彼女を見つめるようになりました。少年は恋をしました。

しかし自らが彼女との間に築いた壁は高く、臆病な少年はその壁を叩きこわすことができませんでした。

そしてそんなこんなしているうち、少年は親の都合で街を離れることになりました。

それでも少年は、少女に思いを伝えることはありませんでした。そしてそのまま、遠く離れた場所へ引っ越していきました。

新しい街にも、「かわいい女の子」はたくさんいました。しかし彼は、少女ほどの女の子に出会うことはありませんでした。

少年は大きくなりました。その時、彼は思いがけない形で少女を再び目にすることになりました。少女も成長し、その輝きはよりいっそう増していました。

しかしその壁は以前よりも高く、少年は呆然と立ち尽くすしかなかったのでした…