ドッペルゲンガー
月曜夜2時〜4時くらいまでやってる「月曜映画」っていうひねりのないネーミングの深夜映画があるんだけど、それをたまたま2週連続で見て、それがたまたま黒沢清という監督の作品だった。
先週は「回路」今週は「ドッペルゲンガー」。
どちらも、人間の暗部を掘り下げてえぐり出してくれる魅力的な(?)作品だった。
「回路」はネット世界を通じて広がる恐怖を軸にしていて、最初は「リング」から始まり「着信アリ」などにも見られる、現代的な媒体を使った王道的な映画かと思った。しかし有無を言わせない退廃感や、依存や孤独に対する人間の脆さをこれでもかというくらいに見せ付ける展開に、ホラー以上の悪寒を感じてしまった。
それ以上にはっきりとえぐかったのが昨日の「ドッペルゲンガー」。
主人公は人工人体という新技術の研究をしている企業付きの発明家だが、行き詰まり苦悩していた。自分のやりたいように仕事をするという彼の理想は、現実世界ではなかなか実現しなかったからである。
そこに彼と全く同じ姿形をしたドッペルゲンガー(以後、分身)が現れる。分身は、彼の本能的な意思を次々と行動に移す。
組織に疲れ、本当はやめたいがやめられなかった会社をクビになるように仕向けたり、好きだった女を誘惑したり、簡単に強盗をして資金を調達してきたり。
最初は分身の行動に業を煮やしていた彼も、次第に分身を自分の研究に利用するようになる。
そしてとうとう人工人体は完成。しかしその時、その富を巡り彼は分身と争い、分身を殺してしまう。
そして発明品を商品化するためある企業に移送する道中、少しでもその恩恵にあやかろうと接近したり、謀略をしかけたりしてくる人々を彼は次々と消していく。そんな彼の姿はまさに、彼自身が殺したドッペルゲンガーそのものだった。
まああらすじはこんな感じだけど、この映画のヤマは人工人体の完成以後だと思う。
簡単にその一部を再現してみる。
主人公「俺はたった一人で、誰の力も借りずにこれを作り上げた!!」
分身「これで名誉も権力も、富も女も手に入るな、ガハハハ」
主人公「おまえは本当に下司な奴だな、俺はこの仕事を終えた達成感が欲しかったんだ」
分身「じゃ金と女は俺がいただく、後はおまえの好きなようにしな」
主人公「ふざけるな!これは全て俺が一人で完成させたんだ!おまえにくれてやるものなんか何ひとつない!」
…取っ組み合い…
分身「いい加減に俺の存在を認めろ!俺は自分の中にあるおまえを認めている!」
主人公「…」
分身「俺とおまえはいずれひとつになるんだ!!!!」
…鈍い音。主人公のアシスタントが分身の後頭部に一撃を与える。
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まあうろ覚えながら再現してみた。
人間の大義名分をエネルギーに動く主人公と、本能をエネルギーに動く分身。しかし主人公も結局欲望には打ち勝つことができなかった。そして本能を象徴する分身を殺した。大義の部分からはみ出した主人公は次第に死んだはずの分身と同化してしまう。
分身には口笛を吹く癖があるのだが、後半、手を血に染めていく主人公が口笛を吹いている姿を見ると、見ている自分も頭を鈍器でなぐられた気分になった。
こんな映画ですわ。ちなみに黒沢清監督の最新作「LOFT」、今度タスクと見に行くことに。中谷美紀とトヨエツだって。キャスト良すぎ。