車グルイ
正気にては大業ならず
運転道はシグルイなり。
金曜日、新聞を発行し終えて倦怠感に包まれた部室で編集長、鈴木は言った
「遠くにドライブに行こう」
免許取得以来、長距離ドライブを経験していない鈴木にそれは出来るのか?
男二人という苛烈で悲惨極まりない状況下に於いて、ドライブは出来るのか?
出来る
出来るのだ
一時間後、二人は川崎市某区にある鈴木家の門前に立っていた
安井「これは名車にござりまするな」
鈴木「なかなか緊張いたす・・・お導きを」
男二人の道中、必然的に車中は下ネタで満ちた
このとき二人が見せた下ネタは
訓練によって到達しうる領域を明らかに凌ぐものであった
発進後しばらくのこと・・・
鈴木流には「車線変更」と呼ばれる特殊な運転がある
絶え間なく帰路を急ぐ車が流れ続ける夕方の道路の最中
安井がふと車外へ気をやった刹那、
鈴木のホンダCR-Vは左車線を離れ
右車線に移動していたのである
車線変更は予想以上の効果を見せていた
精妙なる車線の変更ができなければ車はあらぬ方向へ進んで行ったであろう
安井「お美事にござりまする」
鈴木「ぬふぅ 初めて車線変更した」
安井「初めて、と申したか・・・お美事 お美事にござりまする」
「車線変更」は鈴木流中目録以上の秘伝であり
教習所でむやみに使用することは禁じられている
その後、一向は「がそりんすたんど」と呼ばれる給油所に立ち寄った。
そして店員から告げられる言葉を聞くには・・・
安井「ガソリン代… まことに高くなり申した…」
休憩を取ったコンビニにて
安井「ちゅぱちゅぱ……ぬふぅ」
鈴木「その黒い氷菓、あの棚にあり申したか」
安井「左様。ちょこあいす、と申す(出来ておる喃、森永は)」
海に向かうはずの車はいつしか深い山中へと入り込んでいた・・・
安井が心の平衡を失ったのはいつの頃からであろう
御殿場の山中に於いて鈴木が後ろから煽る車に焦りを感じて運転していると自覚した時ではなかったか
安井「ヒ、フヒイイイイ」
鈴木「俺、結構楽しいんだけど♪」
なんとか下山し、小田原にたどり着いた一行は北条早雲の像の前で休み、帰途についた
深夜一時過ぎ、世田谷通りにて
警官「DTさんがた おまちくださいやし」
DT「何か」
警官「へえ、免許の確認を」
怪しげな男二人連れの深夜運転を咎めたのは屈強な警官二人
俗に言う検問である
DT「おお、ではこれにて」
警官「うむ、日付も変わっております故、お気をつけて」
かくして深夜2時にもなろうかという夜更けに安井は帰宅したのであった。道中通して下ネタを言い続けたため脳が麻痺し、即刻床についたのは言うまでもない
次は彼女とドライブしたい
今回の小旅行への二人の感想はこのようなものであろう・・・