新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

したたる欲望



最近若返った。下半身だけ。

どうも、みんな元気?僕は元気。体だけ。

バックホーンとか聴いたり太宰読んで自己破壊を繰り返してる。

課題に太宰をえらぶんじゃなかった。じゃ、斜陽レビューいきます



「斜陽」は太宰治が晩年に書いた中編小説であり、やがて入水自殺する太宰の「滅びの美学」を感じさせる作品だ。





 時代は戦後復興に向けて激しく移り変わる日本。一度結婚したものの流産し離婚したかず子は、没落貴族として、最後の天爵としての品性を持つ母とともに伊豆の山荘で生活していた。そこに弟の直治が復員してくるが、彼はデカダンスな小説家上原の取り巻きとなり、上京しては大金を使う生活を続けることとなる。

そのうちに母は肺を病み余命いくばくと診断される。

 やげて、直治の文学の師上原に恋心を抱いていたかず子は母の死をきっかけに上原と接近し、やがて既婚者である上原の子をやどす。

かず子は「女は子を生むこと」こそ、いつの時代も人間の真理であると信じ私生児の母として生きることを決意する。





 激動する時代の中で取り残された弱い貴族であるかず子は日常生活を通して、自らの生活力の弱さを体感する。そして美しく生きるだけの貴族は滅びていくしかないのだと思うようになる。

 そのことにもっと早く気づいていたのは弟の直治である。階級の違う、力強い人々、いわゆる民衆と接して自らの人間的な弱さを実感した直治は、下品になることで民衆のエネルギーを身につけようとしたと考えられる。しかしどれだけ下卑ても、直治の身に染み込んだ貴族としてのプライドを人々に見破られ、民衆と打ち解けることは決してできなかった。

 身分の呪縛から逃れられないことに苦悩する直治はやがて麻薬や酒に溺れ退廃的な負の連鎖にはまり込み、最終的には自殺を望む。

 そのような直治を見ていたかず子は、古い道徳や社会通念、作中でいう世間に真っ向から逆らって生きることの無力さを悟る。そして時代や常識にとらわれない「恋愛をして、好きな人の子供を生む」という絶対的、自然的生き方を選択し、それを続ける自分を信じて生きていこうと決意する。





 しかし、かず子、直治の二人に共通していえることは「二人とも母親の持つ本当の貴族性を認めていて、母親の死まではそれぞれの真の願望を果たすことが出来なかった」ということだ。

 母親は、生活力や力強さといった言葉からはほど遠い存在ではあったが、美しいものに対する憧れと二人の子供を思う気持ちのみで生きた最後の貴族であった。そのような存在である母親は最後まで貴族でなくてはいけないと、二人も貴族として振舞っていたと思われる。時代の変革期に亡くなった母親は貴族に生きて貴族に死んだ。いうならば貴族という身分に殉死したのだと思う。

 それを考えれば、一見やけになっての自殺のように見える直治の死も、自らの身分からの脱却は不可能だと悟り、自らの滅びを望んだという過程があり、最終的には貴族という身分への殉死と言えるのではないだろうか。





 このような直治の一生は、幸福を求める上昇志向は欲望や低俗化を助長することになると考え、自らの存在を破壊、露出することで美徳を失っていく社会への反逆を続けた太宰自身の人生に酷似している。しかし太宰もその生き方に肉体と精神の限界を感じており、その気持ちが直治という登場人物に託されたのだと思う。



 一方で、母親の死後すぐに出てくる「戦闘、開始」の表現に見られるように、かず子の人生の革命は力強いものがある。そしてかず子は見事に数年越しの恋を実らせ子を宿し、自らの人生設計、世間との戦いを着々と進めていく。

 このようなかず子の人生は女性の持つ本能的な部分のたくましさを感じさせる。様々な女性遍歴を重ねた太宰だからこそ、新時代への生きる希望を女性に持たせたのかもしれない。



だって、雨が降ることに意味はありますか?女性が恋をして子供を生むこともそれと同じなのです。





「斜陽」を書き上げた翌年、太宰は精神的半虚構自伝小説「人間失格」を完成させ自殺に至る。太宰は、時代への葛藤と意味や定義に取り憑かれた人間達の物語を斜陽に込めて世に送り出し、人間失格をもって最後の自己破壊の露出を行い、自らの人生の幕を閉じた。

 太宰の人生をそのまま自伝的に描いたのが「人間失格」ならば、「斜陽」は太宰の人生哲学を物語に仕上げた小説だと思う。この二つの作品に触れることで私たちは、一見破滅的な太宰の持つ、純粋な美徳への憧れを感じることができるのではないだろうか。





天才を語りたがる人間は自分の身を天才に仮託する、天才になれない愚者だという。僕はそこにあてはまる人間なのだろうが、愚者は愚者なりの悪あがきをして生きていこうと思う。

恋なんて、笹船みたいなもんだろ?