新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

昨日の続き

有名になった彼の店に島本さんが現れたのだ。

彼女は、はっとするほどの美人に成長していた。彼は中学に入ってからこの店を始めるまでの長い間、心の底でずっと彼女を求めていたし、彼女もずっと友達ができず、彼を求めていた。二人は再開を喜ぶが彼女は過去の事を決して語らず、幻のような印象を残し帰ってしまう。





その後彼女は4ヵ月彼の前に現れず、その間彼は物思いに耽り、何事にも集中できなかった。

4か月ぶりに島本さんに再会した彼は、





「すぐ海に流れ込む、綺麗な谷川に行きたい」





というあまりに急な彼女の願いを受け入れ、妻を騙して飛行機で石川へ日帰りの旅へ出てしまう。

彼は今まで何度か浮気をしたが、それらはただの気晴らしととらえていた。それに彼は誰より妻を愛していたからだった。しかし今回の事については、島本さんと寝るつもりは全くないのに、ひどい罪悪感にさいなまされた。それはおそらく心ごと島本さんに傾こうとしていたからなのだ。





島本さんは谷川で、1歳で死んだ自分の子の骨を流し、東京に帰ろうとすると、飛行機は離陸が遅れていた。もし飛行機が欠航すれば、妻に言い訳のしようがなくなる。それどころか彼はこのまま飛行機が飛ばず島本さんと二人で石川に残り続けることを本心で期待しているのに愕然とする。







結局飛行機は遅れて離陸し、彼は日常に戻ってくる。

毎週のように島本さんと会うようになり、二人は失われた青春を埋めるかのように熱心に語り合う。しかし2ヵ月ほどすると島本さんは再び姿を消す。彼は脱力感に支配されるのを恐れ、自分を仕事に追い込み、妻との結び付きを求め週に何度も抱くようになる。







彼の人生は申し分ないように見えた。彼は仕事に打ち込み高い収入を得て、青山のマンションのほかに箱根に別荘、外車を2台持ち、非のうちどころのない幸せで快適な家庭を維持していた。しかし島本さんが失われると、彼が心を開ける場所は世界のどこにもなかった。彼の人生は再び失われたかのようだった。彼の失われた部分は妻にも子供達にもできなかった。それをできるのは島本さんだけだった。そして彼は心を決めた。





ある日些細なことで妻といさかいを起こし、店で仕事に打ち込んでいた彼は再び島本さんと出会う。

彼女はプレゼントに、二人が小学校の時一緒に聞いたレコードを持ってきていて、彼はそれを二人で聞くことを口実に彼女を箱根の別荘へ誘う。そして彼は彼女ともう離れたくないと告白し、家庭を捨てることを誓う。彼らは25年以上溜め込んだ愛を交わし合う。

次の日目覚めると島本さんは姿を消していた。そして二度と彼の前に現れなかった。





家に帰った彼は妻に浮気を問い質され、彼が妻をひどく傷つけたことを知る。

しかしやがてあることを悟り、妻との和解に踏み切る



…僕はこれまでの人生でいつも違う自分になることで欠落や不安から自分を開放しようとしてきた。しかしどこまでいっても自分は変わらず、欠落は激しい飢えと渇きをもたらした。それは、その欠落自体が僕自身だからなんだ。僕は君が好きだけど、その欠落がまた君を傷つけるかもしれない。だから僕は君を愛する資格がないんだ

…妻はこう答えた。

…私も前は夢や幻想というものを持っていたけれど、自分の意思で殺し、捨ててしまったの。あなたと暮らして私はとても幸せで、不満は全くなかったんだけど、私は真夜中に私が捨ててきたものが追い掛けてくる夢を見るの。

何かを捨てたり、失ったりしているのはあなただけじゃないの。私はいつかあなたを傷つけるかもしれないし、あなたもまた私を傷つけるかもしれない。だけど何かを約束することなんか誰にもできないの。だけど今はあなたが好き。それだけのことなの。







その後、彼は島本さんの幻想に悩まされることはなくなった。幻想は彼を助けてくれない。彼は、ここが自分がたどり着いた場所で彼自身がここに慣れなくてはいけないと思った。







ここでこの作品は終わる。この作品で言っている不安や欠落は現実の僕にももちろんある。

それはどんなに満ち足りた状態でも離れることのできない代物だから、僕なんかはよく昔のよき思い出を引っ張り出しては虚無感に襲われる。だけど結局のところそれは何も生み出さないし、どんな生活をしている人も日常に気付かない不安を抱えているんだと思う。







要するに、人間の不完全さを認めながら、現実に慣れて行かなくてはならないということなんだろう。昔の思い出に今の自分の姿を求めても決してそれは叶わない。幻想とはいつか別れなくてはならないのだ。

とここまで何も考えないで書いてきたらわけわからん文章になってる…まあいいや、この稚拙な文章も僕自身なんで(笑)