新・時の軌跡~yassuiのブログ~

旅の話、飯の話、リビドーの話。

トラヴィス

今週はドヒマだったので(説明しよう、私はインターンのために今週の平日5日間を空けておいたのだが、先週になって抽選落ちのメールがきた!ということで丸々24×5=120時間を手に入れたのだ、HAHAHA、もうどうにでもなれ、民法もまた落とした)「デカルチャー・ウィーク」として家に引きこもって映画見たり積ん読状態になった古本を消化したりしていました

具体的には



サイコ・・・まだ見ていなかったので。全てのサイコスリラーの基礎になった理由がわかります。ヘタな昨今の映画より断然面白いですね



アイアムレジェンド・・・今熱い男ウィル・スミス。まだ見たこと無かったので一本。映画としては無難に落としているけど満足感はまあそれほどでも・・・

比較的小粒の映画を見ることが多い僕としてはスケールの大きい映像が新鮮でした



叫・・・黒沢清ということで期待して見た映画だったんだけど結果的には・・・

役所広司ということで期待してみたけど空振り。

黒沢監督にはなるべく特殊効果を使わないで恐さを表現するホラーを作っていただきたい・・・



ゆれる・・・軽い気持ちで見ましたが邦画オブ邦画ですねー

邦画の面白さっていうか武器っていうか魅力は、日本人が持つ文化、社会的背景や感じ方、日常的にぼんやりとおもってるようなできごとをそのまま作品内に持ち込める(洋画だとさ、すでに舞台が非日常じゃない)ところじゃないかと、僕は勝手に思っているんだけど、そういうのを包み込んでるのがこの映画だと思う。



裸のランチ・・・正直言って理解不能。小説版を読む必要があるのか。見るものを選ぶ映画にありがちな思わせぶりなセリフ回しに、何十にも渦巻いた世界の構造、もうお腹いっぱいです

いい点を挙げるとすれば、現代と比べれば乏しい特殊効果でも、雰囲気と組み合わせによって観客に「キモチワルイ」と感じさせるのがすごい・・・だろうか

イメージがイメージを食いつぶす、そんな異端と異端がぶつかり合って交じり合う映画でした



スカイ・クロラ・・・今日映画館で見てきました。原作未読の自分がおこがましいなとも思ったけどにわかミーハーの気持ちで見た。

非常によく出来た映画。小一時間考えて感想文を書きたいくらい。

自分が心から楽しめる映画には、その世界に「吸い込まれる感」があることが条件だと思うのだけれど、この吸い込まれる感を存分に味わうことができたのは久しぶり。

登場人物の生きる人生全体がフラットなんだけど、分けて見ると、戦闘シーンと日常のシーンがしっかりとコントラストをもって描かれている。

書いているうちに自分でも何が言いたいのかわからなくなるけど、一つ確実にいえるのは多分押井監督は初見の人でも楽しめる、広いメッセージ性を持った映画を作ろうとしたのだと感じた。自慰的なものでなく。

とりあえずアイジーの映像美(特に光に照らされる女性の横顔)も光っているので、DVDになってからでも、是非。

草薙水素って・・・ねえ





あと本としては見仏記、灼眼のシャナ、死体の博物誌、やりにげとか比較的ラフなものばかり読んでおりました。今ドグラ・マグラの上を読み終わったところです





では、今週見た映画の中で一番よかったものについて少し書きましょうか。

今週のMVPならぶMVCは・・・・「タクシードライバー」!!





以下ネタバレ注意



主人公のトラヴィスはベトナム戦争中の海兵隊での兵役から帰国した26歳。

自由の身となってニューヨークにやってくるも街中を徘徊する麻薬、武器の売人や売春婦、治安が悪いスラムなどに「悪の匂い」を感じ辟易して過ごす。しかし職には就かねばならないので、とりあえずタクシードライバーになることに。

金はある程度稼げるようになったものの、どうにも満たされず日々を過ごすトラヴィスは、ある時選挙事務所で働く若い女性に恋をして声をかけ、デートにまで漕ぎつける。

しかしいつも通っているポルノ映画館に彼女を連れて行ってしまいあっという間に愛想をつかされてしまう。この辺り女性が見たら「本当にダメ男」と思うんだろうけど、男が見たら「ああ・・・いるんだよなこういう奴・・・」という感じで不思議と親近感が湧いてしまう。

さて、相変わらず変化の無い毎日を過ごすトラヴィスは派手に金を使うこともなく、仲間に

守銭奴め、どうせ俺たちは底辺のタクシードライバー、なるようにしかならない負け犬人生さ、遊べ遊べ」と罵られながらもこう思い続ける



何か、自分を取り巻くこの世界の何かを変えたい。何をすればいいのかわからないけど・・・



この時点でトラヴィスは本当に漠然とした夢、希望、超人願望を描いている。

だがしかしそこにたどり着く要素が彼の周りにはまったくない。政治は蔓延っている悪を一掃してくれる気配すら見せないし、乗せる客は色恋に眼がくらんだ気違いのような奴ばかり。そしてなにより女にモテねえ!!!!!!!孤独だ!!!!!

これに尽きる。



やがて軽く頭がイったような状態になってしまったトラヴィスは「正義の味方」になるべく行動を起こし始める。体を鍛え、貯めた金をはたいて銃をありったけ手に入れて射撃場で腕を磨く。しまいには部屋で手製のホルスターまで作りジャケットの腕に仕込む。

鏡に向かって一人で「俺に用か?」と聞き「バーン」という仕草を繰り返し恍惚とした表情を浮かべる彼の姿はまさしくガチでヒキのキモオタ!!!

そして彼は身近な「悪」の形を見つけるべく・・・

















トラヴィスは「いい人なのだけれども不器用な男、共感力が不足している男」である。

人間は人間との繋がりで生きている以上、どんな夢、希望、欲望も人間との繋がりに関係してくる。コミュニケーション能力の不足している彼は劇中でそういった夢、希望をことごとく掴むことができない。



そんな彼がとった方法は超人化、過激化である。つまり目立つ行動を取れば周囲は否応なく自分に視線を向けてくるのだ。だがそれは、相手の持つ感情を考慮したコミュニケーションではなく、自分の「孤独はいやだ、注目されたい」という感情を満たす自慰的行動でしかない。



そういった行動をとった(映画後半)後も、決して彼を取り巻く日常は大きく変わることはなかった。彼は新聞の3面記事で取り上げられ、彼にとっての正義を貫き通した(半ば強引な方法だが)ことには変わりないが、待っていたのはタクシードライバーとしての凡庸な毎日という現実。



同時期に流行ったのはロッキー。夢、希望をモットーとしたボクサー映画だったロッキー。目標に向かって努力し、かなえる姿は分かりやすい。肉をサンドバックにして殴り続けたり、ひたすらロードワークに励む姿は爽快だ。かっこいい。女にもモテる(女遊びは下半身が弱るから控えろとコーチに注意されるくらい)。そしてなにより見た後に満足すること請け合いである。



だが一方で何を殴ったらいいかわからない男がたくさんいる。何かに頭の中で憧れて、それを捨て切れない男がたくさんいる。それでも割り切って今日を過ごす男がたくさんいる。

現実感を描くことにこだわった「タクシードライバー」を見て、そういう男たちがロバート・デニーロに喝采したからこそ、この映画が今日まで評価されているのだろう。





と、僕はこんな風に感じました。どう考えてもやめとけよ、という手段だったけどそれでも日常を突き破ろうとしたトラヴィスはある意味モテない男を突き抜けた存在でした。ちなみに女性でこれ見て「最高」と思った方はご一報ください。感想聞かせてもらいたいので。



ほいじゃ!