僕、アルバイトォォ!!
野球の練習時間開始ジャストに豪雨に見舞われ、凹みながら帰宅しました
どうも廃人です、12月になりましたがお元気ですか。先生走ってますか。
ふと、アルバイトのことでも書こうかな、と思ったんで書いてみます。
ある、喫茶店アルバイトォォの一日
耳元で癇に障る金切り声を上げて目覚まし時計が唸っている。
午前5時15分。
生温かい快感に満ちた夢を真っ二つに切り裂かれ、苛立ちながら僕は時計をたたき付けた。目覚まし時計はリミットの30分前に鳴るようにセットしてある。保険のために部屋の奥にリミットぎりぎりに鳴るように仕掛けた時計も置いてある。
僕は体を起こして憤慨しながらも、30分の惰眠を貪ることにした。
午前5時45分。再び目覚まし時計は容赦なく鳴き始める。意識が浅瀬にあるからか、比較的二度目の目覚めはスムーズだ。顔を洗い、適当な服に袖を通して家を出る。
空はまだ暗く、空気が針のように肌を刺す。しかし朝の二度寝を楽しむためにリミットぎりぎりで行動している僕には余裕がない。状況に怯んでいる時間はないのである。
近所の爺さんは年中、必ず5時半には起き出して家の前の寺沿いの道を掃き、掃除をしている。この寒い季節にも彼の習慣は変わらないようだ。オンボロの自転車に跨って
「おはようございます」
と軽く挨拶すると
「おはよう」
ともごもごとした返事が返ってくる。近所の人への挨拶というのはするまでが億劫なものだが、こうして習慣になると、まんざらでもない。
爺さんを背にして自転車を立ち漕ぎする。遠く、背後では朝6時を告げる寺の鐘が鳴っている。
駅前の駐輪場に自転車を突っ込み、電車に乗る。早朝とはいえ意外に座席は獲得できない。使い込んだ感のあるつなぎを着た労働者、部活の朝練でもあるのだろうか、エナメルバッグを足にはさんでうとうとする中高生、オフピーク通勤のサラリーマンなど、眠そうな目をした乗客はそこそこ乗っているものだ。
僕は手すり付近に寄りかかって音楽プレーヤーから流れるボサノヴァに耳を傾けた。眠気で脳がとろけているバイト前には、主張しすぎないインストが最適だ。
バイト先の最寄駅に着くと一目散に店舗に向かい鍵を開け、タイムカードのパソコンや、厨房内の機械を起動させていく。彼らが唸りを上げて目覚め、その体に熱を蓄えていく間に、いそいそと制服に着替え今日の勤務時間を確認する。しがない時間労働である。この時に「今日は○○円稼ぐぞ」と自分に喝を入れて、大して無いモチベーションを上げる。そんなこんなしているうちに共働者たちが出勤してくる。朝は皆低血圧だ。「おはようございます」と小さく挨拶を交わし、タイムカードを押す。6時半、仕事が始まる。
今日のオープン作業は厨房外の仕事のようだ。
開店準備は大きく分けて厨房内と外に分かれる。厨房内の機械に湯を入れたりレジに金を入れて店を動かす準備をするのも嫌いではないが、入荷している食材や消耗品を店内の保管場所に納めていく厨房外の仕事のほうが、軋んだ体を動かせるので気に入っている。
業者が無造作に置いていったパンやサンドイッチ類を並べ直し、コンテナの中にある冷蔵、冷凍食品を庫内に入れ替える。パンは一かご9つほどはいったものが12かごほど、サンドイッチは6種ほどあり、大体一種10個ほど入荷している。冷蔵系の食材は段ボール大のコンテナ4つ分ほど、事務系の消耗品やコーヒー豆などは3つ分ほど入荷する。
昔はどこに何を置いていいかわからず、作業にも時間がかかったが、惰性に任せて2年もこの仕事を続けていれば、さすがに無意識のうちに物は並べられるようになる。特に他の場所に生かすこともできない無駄な技能の一つだ。
7時過ぎになるとシャッターを開ける。日も昇り始め辺りも明るくなり、一日の始まりが心地よく感じられる。
店の前や店内を軽く掃除したりコーヒー豆を挽いた後、開店直前にコーヒーを試飲する。
朝一番に抽出したコーヒーをブラックで飲むのは格別である。苦味の中に新鮮な酸味が同居していて、心を芯から温め、ほぐしてくれる。
ここに勤める前は
「は?コーヒー?無理無理!苦いって!!ブラックで、とか言ってるオッサンなんなの?死ぬの?」
とかほざていた自分を掌底で打ちのめしたい。全力で。
7時半、店の照明を全て点けて、自動ドアの電源を入れる。ドアの前に列を成した客が一同になだれこむ。
最初のポジションはレジだ。朝に来店する客の3割から4割は常連で、メニューも大して変わりはないのでどんどん先取り、先読みをしてドリンクを入れ、コーヒーソーサーやスプーンをセッティングしていく。
店内なのか持ち帰りなのか、スプーンは要るのかトレーはつけるのか、袋に入れるのか砂糖とミルクはいくつ付けるのかレシートは欲しがらないのか。
常連の顔を覚えるにつれて、彼らの求めるサービスをスピーディに提供できるようになれば、受け取ることのできる笑顔も次第に増えてくる。女性ににっこりとした笑顔で感謝の意を表されるのはもちろん例外なくうれしいものだが、常連の出勤前のおっさんが、微妙に表情を綻ばせて、無言で「うんうん」と頷きながらブレンドを席に運んでいく様子を見るのもまたそれはそれでうれしい。
開店2時間ほどで通勤前に来店するのは大体150人から200人ほどだろうか。忙しいほうが時間もあっという間にすぎる。悪くない。
彼らへの接客(といってもただのレジ)を一通り終えると休憩に入る。コーヒーを一杯いただいて、事務所に行って30分ほどだらける。休憩中は大体読書に当てる。30分もあれば思いのほかページは進むものだ。
休憩から上がるとトイレ清掃、ホール清掃、下げ台の精巣を行い、再び厨房内に戻り、フード担当のバイトと交代する。
ランチ前の10時〜11時台は、ランチに備え単調な仕込みに入る。
生ハムやチキン、サーモンたちをひたすら並べる。サラダを小分けにしてラップで包み続ける。胡瓜やトマトをスライスアンドスライス。きのこのマイルドな匂いに昏倒しそうになりつつ仕込む。酸っぱいキャベツの匂いに涙ちょちょ切れながら仕込む。きんぴらごぼうをミックスアンドブレンド。
そして時折入るフードの注文に対応。
2年間仕込み用のラップを切り続けてきたので、昔は不器用極まってちぎるのが下手だったためぐちゃぐちゃにしていたラップを、「サッ」と華麗に切ることができるようになった←無駄な技能再び
あと、以前は不器用だった包丁やナイフも、さすがに力の入れ方が分かって素直に扱えるようになった。いつ手元を狂わせるかと思うほどおぼつかなかった、悲惨な以前の状態を考えると、まともな進歩の一つかもしれない。家ではサラダくらいしか作らないのだが。
やがて12時台のランチタイムがやってくる。コーヒーのみを嗜む客の多い午前中と打って変わって、今度は立て続けにフードの注文が入る。猫の手も借りたいとはまさにこのことで、一手でも他のポジションの人が手伝ってくれると調理工程もより楽になる。オーブンにパンを放り込んでくれる、焼きあがったパンに調味料をつけてくれるだけでも大分違うのだ。
昔はランチタイムともなればそれこそ自分のことで手いっぱいだったが、今は少しは厨房全体の工程を考えて立ち回れるようになったような気がする。チームワークで何かを生み出す時に求められるのはいつも最大効率なのである。
そんなこんなでバタバタと動き回っているうちに勤務時間は終わり、タイムカードを押す。
まだ厨房内であわただしく働いている仲間を横目に去るのはいささかうしろめたい時もあるがそこはアルバイトォォ。次回の出勤を確認し、速やかに事務所で着替え、店を出る。
日の昇りきった13時の人通りは盛んだ。
「さて、これから学校か」
そう自分に言い聞かせつつ、僕は付近のゲーセンへと足を向けた。
完
案外無意識に積み重ねている日常って分量あるもんですね
単調作業なありがちバイトやってる自分でも意外と書くの大変だったし、塾講とか知的労働の人はもっと面白い裏話やドラマがあるんじゃないか、と想像してしまいます
まあたかがバイト、されどバイトっていう感じですかね